異議あり!

鉄道ピクトリアル2010年6月号の運転理論

01
プロが語る危険性

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まずは感謝

 運転理論が趣味誌に語られる事は少なかったので、こういう形で多くの読者の目にとまると言う事は非常に有益であり、これを元に多くの方が興味を持って頂き、今まで主観的な意見でしか比較の出来なかった車種について、公平で客観的な比較をしてもらう方が増える事を願ってる。

現職運転士だから信憑性が高いと読者は思ってしまう危険

 この記事はJR東日本八王子運輸区の現職運転士の松本正司氏が書いたもので、個人的な記事ではなく職名を示したものであるからJR東日本の肩書きを背負った記事であり、当然のことながら読者は記事内容の信憑性は高いと思う事だろう。
 その筋のプロが、その内容を記事にしているわけだから、誰もが疑うことなく、記事を鵜呑みにしてしまうのは、何も鉄道趣味に限ったことでは無い。
 F1ドライバーがレース中の事を記事にしたなら、読者は実際のレースと記事をダブらせて考え、よもやそこには間違いが潜んでいる等とは思いもしないし、プロ野球の打者が阪神タイガースの藤川球児との対戦で球の伸びが凄いと言えば、誰だってそうなんだと思うはずだ。それは、プロがそれについて語る以上、そこには誤りなど無いという読者の先入観がそうさせる。
 だから、そういうプロが記事を書く場合には、主観と客観は完全に区別すべきで、曖昧な状態での決めつけ(○○と××とでは○○の方が性能が良いなど)は控えるべきと考える。それは、プロの発言というものがもたらす影響力というのは読者に対して非常に大きいからに他ならない。
 が、過去に101系が103系よりも高速性能が高いなどと言う運転理論上ではありえないような事が平然と語られてきたのも運転士の体感をもとにした事例からだし、東大の曽根教授が「103系は山手線専用車である」「車両設計事務所がその旨記した資料もある」※1とまで言ったピクトリアルの記事などで、多くのファンが103系は山手線用であると信じ込んでしまった。
 その後、福原俊一氏などが当時の車両設計に関わった方などのインタビューなどを元に「103系は山手線向けではない」点を解明していったのだが、その後曽根氏は同じピクトリアルの記事※2で山手線向けという主張を再検証したが、結局「わからない」というような結論にいたっている。つまり、教授というネームバリューや、車両設計事務所がその旨記した資料などという言葉によって読者は信じ込まされたわけだが、この記事を見ると、ロクにリサーチも行わずに103系を山手線専用車だと決めつけていた事が浮き彫りにされた。
 しかし、ここで当の本人が「103系は山手線専用車だったかどうか不明です」と言ったところで20年近くにわたって主張し続けてきた事である。多くの鉄道ファンは、その間違いをそのまま鵜呑みにしてしまっている。
 つまり、一旦デマが広まると、それは後日収束させる事は非常に困難であるわけだから、プロが語る以上は自分の発言が多くの方に影響するんだと言う事を良く認識して貰いたい部分でもある。
多くの読者は、記事内容を疑いはしない。運転士が書いた事なんだから、それが正しいと誰もが思う。そんな状態で間違いが入り込んでしまうと、先の曽根教授の如く俗論・俗説を世間に広める事になる。そういう危険性がプロの記事には含まれていると言う事なのだ。
 そして、今回の記事は、まさにその危険性を大きくはらんだ内容であると思う。

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